大判例

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仙台高等裁判所 昭和31年(う)738号 判決

住宅金融公庫は自ら居住する目的等をもつて住宅を建築する希望者に対し建築資金を貸付ける業務を行うものであるが、公庫は貸付に関する申込の受理及び審査、資金の貸付等の業務を金融機関に、住宅の建設工事の審査を地方公共団体にそれぞれ委任して処理せしめる。(記録五〇二丁業務委託契約書参照。)今、公庫融資手続を概観すれば受託金融機関は融資希望者から貸付の申込を受けるとこれにつき所定の審査をし、抽せん等の方法により当せん者を決し、この当せん者につき所定の調査を行い、これに合格した者が一カ月内に受託地方公共団体に対し、設計図書等を添付して設計審査の申請をすれば、地方公共団体は設計図書の内容が建築関係法規及び公庫所定の建設基準に合致するかどうかを審査し、これに合格すれば審査合格を決定する。(これを設計審査という。)受託金融機関は設計審査に合格した者(貸付予定者)と公庫支所の承認を得て貸付契約を結ぶ。貸付契約者に対する貸付金の交付は一定の出来高に応じ三回に亘つて行われるが、このためには、貸付契約者が受託地方公共団体に対し現場審査の申請をし、地方公共団体において、建築工事の施行が設計審査申請のとき提出した設計図書に適合し所定の出来高に達しているかどうかを審査し適当と認めて合格を決定することが要件となつている。(これを現場審査という。)

住宅金融公庫から建設工事の審査を委託された受託地方公共団体である宮城県は公庫からの右委託業務、すなわち、右に見たとおりの設計審査並びに現場審査の事務を県建築課に分掌せしめたが、昭和二五年一〇月一八日付同県土木部長の各地方事務所長宛の依頼書(証第一八号)により、竣工時の審査を除き一、二回の現場審査の事項につきこれが処理の権限を各地方事務所長に委任し(地方自治法第一五三条参照。)ついで昭和二六年一月一一日以降竣工時の審査についても同様の措置を採るに至つた(記録六四六丁宮城県知事の回答書、証第二一号の同県建築課長の回答書、証第一六号の建築主事会議開催について通知と題する書面。記録五二三丁以下、本件の現場審査申請書参照。)結果、県建築課は仙台市を除き県下各地方事務所管内の現場審査の事務の執行は、これを分掌することがなく唯(仙台市内の現場審査と)県内における設計審査の事務を担当する権限を持つこととなつたのである。

(中略)

二、原判決中判示饗応は被告人が判示のように融資住宅の融資申込について斡旋した、職務行為と密接な関係のある行為等に対する謝礼としてなされたとする認定について、

被告人が住宅金融公庫から建設工事の審査を委託された宮城県の建築課長として同課に属する分掌事務を執行処理するものであること、(被告人の原審供述、)同県の、「住宅金融公庫よりの委託業務に関する事項」はこれを同県建築課において分掌すること、昭和二六年一月一一日以降委託業務のうち現場審査は各地方事務所に権限を委任した結果、本庁建築課は(仙台市内の現場審査と)従来どおり、全県内の設計審査を分掌することは前段認定のとおりであるから、被告人は建築課長として課の分掌事務の一である設計審査の事務を担当しているものといわなければならない。もつとも、設計審査(現場審査も同じ。)は、先づ課所属の建築主事(建築基準法第四条四項等参照。)がこれを行い、事実上は建築主事の審査により設計審査の合格が決せられる関係にあるが、建築課長たる被告人が建築主事の審査の結果に基き、最終的に審査をし合格を決定すると、こゝに融資申込者である設計審査申請者が公庫から融資を受けられる地位(貸付予定者。現場審査にあつては貸付金の交付。)を附与せられるのであるから、委託業務たる設計審査は被告人の処理するところというに何等の妨げはない。(公庫関係法規、遠藤証言参照。なおこの関係のみならず同証言を措信し得ざる理由は何等存しない。)そして設計審査の、融資手続中における位置を前段認定のところによつて述べると、融資申込は受託金融機関になされ、金融機関が抽せんや審査によつてその段階における合格者を決定すると、それからその合格者の申請により受託地方公共団体の設計審査に移り、さらにこの合格者について受託金融機関が貸付契約をするということになつている。

ところで判示大土森鉱業所従業員四、五〇名が融資の申込をしその中四〇名が被告人の設計審査に合格し融資を受けられることになつたのは、被告人が公庫仙台支所長友納不二雄の依頼により各地方事務所を通じて大口融資申込者の募集を斡旋した結果ではあるが、原審証人遠藤久、同友納不二雄の各証言、被告人の原審供述(とくに、第一二回公判調書)被告人の検察官に対する供述調書(九月一八日付)によれば、この種融資申込の勧誘は本来、公庫仙台支所又は貸付業務を行う受託金融機関が行うところと認められるところ、当時、同支所の発足後日が浅く公庫業務に対する世人の理解も不充分で融資申込者が少く、会計年度末を控えて予算消化の必要に迫られた公庫支所長友納不二雄が、この目的達成のためたまたま、県建築課長である被告人の地位を利用し被告人に大口融資申込者の募集斡旋方を依頼してきたので、被告人はこれを承諾し、各地方事務所を通じて判示大土森鉱業所にも、融資申込を勧誘してやつた結果、同鉱業所従業員四、五〇名から融資申込がなされたという事実、このような勧誘はこのとき限のことでその後は行はわれた形跡がない事実がそれぞれ認められ、右事実関係によれば、かゝる融資申込の勧誘は、公庫支所、又は融資申込の受理を含む貸付業務を行う受託金融機関の職務ないしこれと密接な関連のある行為とはいゝ得ても、行為の性質上設計審査の事務にとつては偶然のことで、これにしばしば随伴するというものではなくそれとの関連も直接的でないのであり、被告人もこの種の融資申込の勧誘はその後は行つていないのであるから、未だ被告人の設計審査の職務と密接な関係のある行為とは認め難い。それで原判決が融資申込について、斡旋したことを被告人の設計審査の職務行為と密接に関連するものと認めたのは事実を誤認したか、法令の適用を誤つたものというべきであり此限度に於て事実誤認等はあるが後述する如くこの誤は未だ判決に影響を及ぼすこと明らかといえないので原判決破棄の理由とならない。

なお、原判決挙示の証拠により認められる、判示大土森鉱業所従業員に対する、地方事務所による融資申込の勧誘は多数の従業員になされた事実に徴し同鉱業所長小早川はこれを知つていたことが窺われ(証人小早川義一の原審供述によると同人は従業員に代つて県建築課や公庫仙台支所で融資住宅の融資申込の手続をきいているのである。)現に融資申込を勧誘した地方事務所の上級官署と一般に考えられている県本庁の建築課がこれを指示したものと考えるのも通常であり、従つて小早川は建築課長である被告人が、従業員に対する融資申込の勧誘について関与しているものと考えていたことが窺われ(少くとも判示饗応の際には右の事実を知つたと認められる。)るのであるから、原判決挙示の小早川の検察官に対する供述調書謄本、被告人の司法警察員並びに検察官に対する各供述調書により判示饗応は被告人から融資住宅の融資申込について斡旋を受けたことに対する謝礼の趣旨でなされたことを認め得るのであつて、この点の原審認定には誤は存しない。

三、原判決中判示饗応は被告人がした判示融資住宅の設計審査の職務行為に対する謝礼の趣旨でなされたとの認定について、

(原判決は判示饗応がそれに対する謝礼としてなされたとする。被告人が融資住宅の融資申込について斡旋したという、被告人の設計審査の職務に関せざる行為を職務に関する行為として、特に強く判示し本来の職務である設計審査の職務行為を明確に判示していない憾がないわけではないが、原判決は判示饗応は被告人が融資住宅の融資申込について斡旋をしたこと「等」に対する謝礼の趣旨と判示しているので、原判決挙示の証拠と対照すれば、原判決は判示小早川が被告人の、融資住宅の設計審査の職務行為に対する謝礼として判示饗応をしたことをも認定した趣旨であることが窺知できるのである。)

判示饗応当時、被告人が設計審査の事務を担当しており本件融資住宅の融資申込につき設計審査の合格を決定しその結果貸付契約がなされ融資がなされ得る状態に在つたことは前段貸付手続に関する認定に徴し且つ原判決挙示の小早川義一の検察官に対する供述調書謄本、被告人の司法警察員並びに検察官に対する供述調書により認められる(被告人の原審第一二回公判調書における供述によると、第一回の現場審査を了した頃となつていて、設計審査に合格し貸付契約がなされていたことは動かない。)ところ、原判決挙示の小早川義一の検察官に対する供述調書謄本によると、判示饗応をしたのは、被告人や友納等四人から私方大土森鉱業所の融資住宅の建築に関し平素から世話になつていましたのでその御礼のためで御世話になつたことの一つは私方が建築資金の融通を受けうることに割当てゝもらつたことであるというのであり、判示大土森鉱業所従業員が融資住宅につき設計審査に合格し融資契約をし融資を受け得られることになつた右事実に鑑みるとき、右小早川の供述するところは、被告人の関係では、小早川が所長である判示大土森鉱業所の従業員四、五〇名が融資申込をするについて被告人から斡旋を受けたこと、内四〇名が被告人の設計審査を受けこれに合格したこと、に当るものと認められ、前者はいま問題にならぬとして、被告人が設計審査の職務、少くとも融資につき重要な職務、を持つていることを小早川において知つていたと認められること(小早川の原審証言によると県と公庫支所で融資申込の手続をきいている。)に徴し、同人の右供述調書の記載はこれを首肯し得るのである。

被告人の司法警察員に対する供述調書(昭和二八年九月九日付)には、小早川は融資住宅の割当についても後述のように私達から面倒をみてもらつていることに感謝し饗応したと思う旨の記載があり、以上によれば判示饗応は被告人の設計審査の職務行為に対する謝礼の趣旨でなされたことを認めることができ、単に視察の機会に儀礼としてなされた旨の被告人の原審供述等は措信し難く、(所論小早川の検察官に対する供述調書謄本が社会的儀礼としての饗応といつているものでないことについては前述のところ。)判示饗応が社会的儀礼のものでないことは、小早川の右供述調書謄本被告人の司法警察員に対する供述調書(九月九日付)によつて認められる判示饗応の際、小早川は芸妓二名を宿泊させ、内一名は被告人の寝所におつた事実によつても是認できるのであつて、饗応費用の比較的少額であることは必ずしも右認定を妨げない。

原判決挙示の被告人の司法警察員に対する供述調書、同検察官に対する供述調書(そのいずれも任意の供述と認められることは原審第一六回公判調書中の証人佐々木司、同岡崎悟郎の各証言によつて明らかである。)中には不実を述べた部分被告人の職務行為に関係ない行為に対する謝礼と述べた部分等も存するが、これあるがため全面的に措信できぬものでなく、前記摘記部分は充分措信するに足り、右摘記部分は措信できない供述部分と不可分的に結合しているわけではないから、これを分割して罪証に供しても何等違法ではない。又小早川の検察官に対する供述調書謄本中にも被告人の職務行為と無関係な行為に対する謝礼の趣旨でも饗応した記載があるが関連はあるが職務の異る被告人等四名に対する饗応の趣旨を概括して述べているのであるから、右供述調書を措信できないとはいゝ得ない。

以上の次第で原判決には所論のような判決に影響する事実誤認、法令適用の誤、採証法則違反等の違法はなく、論旨はいづれも理由がない。

(裁判長裁判官 籠倉正治 裁判官 細野幸雄 裁判官 岡本二郎)

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